1月27日、10時間半に及ぶ異例のフジテレビ経営陣の記者会見が放映されました。
鑑賞された方はまさか、スポンサーCMを割愛するとは思わなかったでしょう。さらに、記者の奔放な発言や怒号のようなものが飛び交うとまで想像しなかったと思います。
興奮したガヤから「トカゲの尻尾切りにしか見えない、下っぱではなく日枝をだせ」と煽られ、進行を遮る無双のクレーマーも爆誕しました。開始後5時間半くらいのところ、クレーマーに対して苦言を呈した金髪男子が拍手を浴びるほどでした。(私は見入っておりましたw)
1月29日付朝日新聞「フジテレビかわいそう」がキーワードトレンド入りを報じることとなりました。ある意味で同情票が集まり、フジテレビを賛する方もおられます。
一方で、「それ以上、お答えできません」という発言がこれまでに度々事態を悪化させたように見受けられます。その意味で、責任の所在を明らかにする姿勢が見えなかった、のはフジテレビ経営陣の過失だろうと思います。
・何が正解だったのか?
イノウエは写真業の傍ら、普段、研究会でアーレントや、カント哲学の研究をしております。そこでは今回の状況に酷似する事例や考察に、頻繁に触れることがあります。
人々が論理的であろうとすれば、Aという悪が生じれば、Aの成立のためのBを論難せざるを得ない。続いて関係するCにもDにも責任が及ぶ、Dの原因がEであれば…というようにして、Zを糾弾しないと気が済まない。*1
という一連のセットが、論理的であろうとすると生じます。そして、大きな紛争が起こる場合の歴史の教訓も、形式的な論理の強制の結果、実態への観察がおろそかになる旨が論じられてきました。この視点から見れば、実体よりも形式的な論理に裏付けられたものだったと思います。そうであれば、経営陣の退陣劇の騒ぎの大きさは、必要以上に責任問題が肥大化したものだと目星をつけられます。
70社とも言われるスポンサーが軒並み撤退だなんて、論理による画一化の功罪の典型例ではないでしょうか。殺人や集団リンチが起きたわけではないですが、それに相当するような論調に思えます。
・実体を観察すること
報道が正しければ、客観的数値としては例のトラブルの示談金(損害賠償?)は9000万円です。この金額からすれば年収1000万のサラリーマンなら9年分です。被害者は不治の後遺症を負ったわけではないと、和解の金額から(莫大な金額ながら)推察できます。その上、加害者は反省の意を表明しました。引退表明の前に報じられた謝罪文では、文面に、「これで復帰できる」といった趣旨の記述があり、論難されましたが、その記述が加害者の無反省を示すものとは読解できず、実際になされたことの罪深さは、計り知れない悪だったわけではなさそうです。
仮に企業倫理が問題の本質だったとしても経営陣が実体に着目していたなら、具体的な責任の限定可能性に言及できたと思います。例えば重大な報告を隠蔽した上司がいた場合には、相応の配慮を怠った責任を取ると明言できます*2。
もしくは、被害者を、加害者の不法行為を予期できる場に案内した場合に厳罰に罪を償う、ということなら、経営陣は表明できます*3。
専門家ではない私がこう述べる理由は、責任の程度が大きいとしても限定的であることを明示できるからです。実体(実質)の相応責任に程度に言及できなかったのは元々、形式的な論理に拘泥したからだと推察します。
このような形式論理への傾倒は、例えば、カントの論理学から否定されるのですが、哲学においても古典的(形式的)論理が、事象の個別性が疎かにされたと言います。フジテレビの状況に私には重なります。AならばBという間には、数学とは異なり、さまざまな複雑さが入り込むので、論理によって追求するのでなく、実体の個別的な観察に基づいて、説明する方が有効です。この点が、看過されやすいのは、古代も現代も大差はなさそうです。
このような理解のもとでは、フジテレビの立場としては、「公開できない範囲が多く、その点は、第三者に委ねなければならないが、今できることは内部調査と各部署に対する責任相応分の限定的な処分です。」と、自社の立場を姿勢を示すことが有効な一手だろうと推察できます。何かトラブルが生じ、嫌疑をかけられた際には、世間の関心の有無に関わらず、形式ではなく実質の論理に基づく説明を果たす方がそういう意味で、得策に思われます。
そのようなわけで、フジテレビの異例の記者会見に便乗して、推しの哲学を紹介させていただきました。なにより民主主義の言論空間が、お互いがお互いを不用意に断罪し合う非文化の温床にならないことを願います。
*1 『全体主義の起源(1)』参照
*2 安全配慮義務
*3 結果回避義務
______追記(2025.7.8)
無作為の責任が問われる代表的な義務
① 安全配慮義務
② 結果回避義務
③ 危険回避義務
④ 保護観察義務
⑤ 善管注意義務
例えば:会社が従業員に対して有害物質を扱う作業を命じながら、防毒マスクや換気設備などの安全対策を施さなかった場合(①)自分で焚き火をしたことで周囲の枯れ草に延焼の危険を生じさせたにもかかわらず、その後に消火措置や周囲への注意喚起を行わなかった場合(②)自宅の庭に蜂の巣ができていることを知っていながら放置し、近所の子どもが刺された場合(③)親が病気の子どもを看病せず、医療機関にも連れて行かずに放置した場合 (④)マンションの管理会社が、共用部分に設置された消火器の点検や更新を怠った場合 (⑤)